2016年04月07日

慶應大教授のゲノム解析結果公表と保険会社のゲノム利活用から見る個人情報保護や自己決定権による説明の限界

ゲノム解析のビジネスの進展は、どんどん進んでいる。もちろん個別化医療、精密医療(Personal medicine、Precision medicine)の観点からゲノムの解析結果の活用は医療の質と正確性の向上に寄与してもらいたい。しかし、倫理や個人情報の保護、差別につながるリスクについても積極的な議論を行わなければなりません。

まず、根本的にゲノムの解析結果の情報は、法的に見て本人の同意だけで足るのでしょうか。ゲノム解析結果の一部は先祖や子孫の情報に関連するものであることを忘れてはいけません。法的に見ても、個人の自己決定権の範疇で、適法化できる問題ではない点を絶対に忘れてはいけません。そもそも、自分自身で、親や子供、孫の世代までに個人一人が責任を持てる問題ではないのです。

【保険会社とゲノム情報の問題】

近時の事例においても、遺伝情報を生命保険に適用するような取り組みも始まろうとしている。明治安田生命の取り組みが報道(毎日新聞の記事)されたのも記憶に新しい。確かに、適切にリスク分析ができ、本来多くの保険料を支払わなくてよい人たちにとってはメリットはあるかもしれません。しかし、これでは、遺伝的に重大疾病のリスクが高い人が差別され、場合によっては保険に加入できないことにつながることのリスクとバランスの議論はなくてよいでしょうか。現在日本国内においては保険にはこのような業法規制が明確にはありません。

しかし、これでゲノム解析を保険加入者に促す流れを作った場合、ゲノム解析の解析結果の情報はどこに行くでしょうか。どこに頼むのでしょうか。現状においても解析業者は中国勢がかなり勢いを増し、かなり安価な解析が可能になってきています。だからこそ国内においてゲノム解析の結果の情報がとどまるとは言い切れません。この結果何が起こるのか規制を議論する政策論としては議論をもっと進めなければなりません。国内の保険会社だけの問題ではなくなる可能性も視野に入れなければならないのではないでしょうか。

これに対して、改正された個人情報保護法においても、越境データの規制は非常に弱いもので、最終的に国内法ではゲノム情報が点々流通した場合に情報は守り切れないと思われるほか、本人以外の関連するゲノム情報は、利活用に関しては同意は取れておらず、自由に本人同意さえあれば、自由に利活用できることに制約がなくてよいのか真剣に考えなければなりません。

【大学教授の実名でのゲノム解析情報の公開】

慶應義塾大学教授が個人のゲノム情報を実名で公開したというニュースもでてきました。これも、ご本人が同意をされていらっしゃる類型かもしれませんが、完全に一致しなくても、関連するゲノム情報を持っているご両親、ご親族、もしお子様がいらっしゃれば、彼らの同意は得られているのでしょうか。全世界に公開することは少なくとも血族の同意は必須であるように思いますが、今後の研究の発展と倫理、法規制をどのように考えなければなりません。研究活動を阻止したいとは思っていませんが、権威のある大学がこのような取り組みを始めるうえで、大学がやっているのだし、研究目的だから全く問題にならないという見解のまま一般的なサービスにゲノム解析情報が扱われてはいけません。

ゲノムに関しては、ゲノムの解析結果の利活用についての利用と制限のバランスを定めるゲノム規制法の議論を早く進めなければ手遅れ委になる可能性もあります。自主規制やガイドラインで議論する段階は終わりつつあります。一般の方にも、家族がゲノム情報を開示することでどのような問題に発展するかまた、医療の発展、効率化とどのようにバランスしていくかの議論を真剣に考えてもらいたいと思います。

posted by NAY at 12:28| 医療情報