2016年06月30日

英国のEU離脱と知的財産の実務や個人データ取引への影響についての雑感

1 知的財産権についての影響概要

英国公認特許代理人協会、以下「CIPAという。」は、おおむね以下の通り表明しています。
「英国がEUから離脱するとの投票結果に対して、直ちに英国がEUから離脱の効力が発生するわけではないことから、冷静な対応するように呼びかけており、EU離脱に向けた手続きとの関係があり少なくとも2年間は従来同様の実務が行われ、その間にCIPAは、知財権の所有者にとって最良の結果が得られるように、政府と協働していく。

また、英国の欧州特許制度への加盟は、世界知的所有権機関(WIPO)への加盟と同じく、EUへの加盟とは別の法的根拠を有しているから、英国のEU離脱の決定は、欧州特許(EP)の権利者に影響を与えるも、英国特許弁理士の欧州特許に関する実務遂行の能力を制限することはない。

従って、英国特許弁理士は、今後も全ての英国および海外の出願人のために欧州特許出願の手続を行うことができ、欧州特許出願人は如何なる権利も喪失することなく、また既に欧州特許庁(EPO)経由で得た特許権も影響を受けない。英国特許弁理士は、今後も全ての英国および海外の出願人のためにPCT出願の手続を行うことができる。さらには、PCT出願人は如何なる権利も喪失することはないとし、現時点では、英国の特許弁理士および商標弁理士はこれまで通りの業務を行うことができ、英国および海外の知財権所有者は如何なる知財権を喪失することもなく、EU IP registration systemへのアクセスも失うことはない。」

 以上から、知的財産権の出願や権利の維持の観点で直ちに大きな影響があるわけではないように思われるが、2017年に向けて発効作業が進んできた欧州特許統一制度には、特許主要国でもある英国のEU離脱がその進捗および発効時期に影響を与える可能性は十分考えられると指摘している専門家もいるほか、EU下にある欧州統一特許裁判所(UPC)の規定では、パリの本部に加えてロンドンに支部が設置される計画であったが、今回の離脱により、これも再検討になる可能性は十分存在する。

2 そのほかの法令特に個人データの越境取引についての問題点

知的財産に限らずEUの指令等により、英国国内で法的執行力を有している法制度が離脱により、国内で改めて同様の法令を整備するのかの問題がある。この点、法律の問題で特に特徴があるのは、EUから離脱することで、これまで、EU域内での個人情報データの取引は個人データ保護指令と自国の法制度によって根拠づけられていたのが、そもそもEU域外となれば、日本やほかの国と同じように個人情報データの越境データ取引をBCRの手続き等によらずに円滑に行うには、英国独自のデータ保護法制がEUのデータ保護指令と同様の十分な保護が与えられているか十分制の認定を受けなければならなくなり、十分制の認定を受けなければ顧客データ等の取引を英国を介してEU市場で流通している企業は今後、大きな影響があるものと思われる。

おりしもこの分野でも、指令ではなく規則として各国の法整備をしなくても直接的にEU加盟国に効力を発するGeneral Data Protection Regulationの発効米を控えているだけに、今後離脱に向けた2年間でどのような調整行うのか動向を注視する必要がある。


※200ページにも及ぶその原案が(2015年6月11日ブリュッセルで発行)が公開されている。(まだドラフトの段階で一部不備があります。)

"Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on the protection of individuals with regard to the processing of personal data and on the free movement of such data (General Data Protection Regulation) - Preparation of a general approach"
http://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-9565-2015-INIT/en/pdf

いずれにしても、今後どのようにEUからの離脱の手続き、交渉が進み法制度の整備がなされていくかは注目しておく必要がある。
この辺りは、UKの大規模ファームに属する英国人弁護士の友人とも連携していきたいと思います。
posted by NAY at 10:53| 企業法務全般

2016年06月19日

ベンチャー企業のコーポレートガバナンス

東証の上場基準が緩和されてから久しいがまだまだベンチャー企業のコーポレートガバナンスに問題がある事例が少なくない。上場が容易になっても市場の信用を毀損するような企業は上場を許されるべきではないし、上場を維持できるのも問題がある。確かに、企業規模に応じて組める体制に限界があるのは事実だが、投資家である株主への信頼を構築する点においては、マザーズ上場でも東証一部でも満たすべき基準があるのではないかと考える。

まず、取締役会の機能を評価するにあたり、コーポレートガバナンスコードの審議の活性化の項目を再確認しておきたい。原則4−12には以下の通りの記述があり、至極当然の内容である。この点から必要な事項を検討してみることとしたい。

【原則4−12.取締役会における審議の活性化】

取締役会は、社外取締役による問題提起を含め自由闊達で建設的な議論・意見交換 を尊ぶ気風の醸成に努めるべきである。
補充原則 4−12@
取締役会は、会議運営に関する下記の取扱いを確保しつつ、その審議の活性 化を図るべきである。
(@) 取締役会の資料が、会日に十分に先立って配布されるようにすること
(A) 取締役会の資料以外にも、必要に応じ、会社から取締役に対して十分な 情報が(適切な場合には、要点を把握しやすいように整理・分析された形 で)提供されるようにすること
(B) 年間の取締役会開催スケジュールや予想される審議事項について決定し ておくこと
(C) 審議項目数や開催頻度を適切に設定すること (D) 審議時間を十分に確保すること 

とくに、(@)の資料の準備が取締役会開催の当日や前日までかかり、配布がギリギリになってしまっている企業は問題を抱えていることは否めない。新規事業やM&Aにより事業拡大や経営を加速するために取締役会に上程する場合においても、適切に運用されている企業においては、取締役会の数日前やその計画段階で社外の役員との情報が協議され、適切に意見交換も取締役会に上程される前に当然に行われ、そのうえで審議されている。この理想形を実現できていない企業はやはり、事業部門と間接部門の連携に問題があるのか、そもそも経営企画、管理の部門の人員の体制の不十分性を検証しておかなければ、取締役会の機能が十分果たされているのか疑問が残ってしまうことになる。

(A)の点については、(@)ができている企業ほど適切に情報が整理されているように思われる。なお、最低限議論されるべきポイントとして、経営判断が適切になされているかという観点から、特に新規や既存事業のワーストシナリオ、ベストシナリオを議論しつつも、ワーストシナリオの際の回避策についてもきちんと整理され議論がなされることを目指すことが必要である。取締役の善管注意義務を考えるにあたり、やはりワーストシナリオ自体やその回避策についても議論がなされずに事業が失敗するような場合は、取締役の善管注意義務違反を議論するにあたっては非常に厳しい事態になりかねない可能性もありうるからである。
この点ができていないベンチャー企業は議論するべき論点についての運用を速やかに変更することを検討するべきである。

(B)(C)については、年間のスケジュールや予想される審議事項、項目数については、多くの場合、計画はあることが通例だと思われるが、企業の規模と体制の成熟度のバランスから何を取締役会で議論すべきかはきちんと検証すべきである。取締役会の効率性ばかりを重視して、決議すべき上程事項を限定しすぎると特に社外の役員が把握せず施策が実行されることが発生しかねない。このようなことが十分にできていない企業においては、特に、社外役員は取締役会だけではなく、経営会議などにも適宜参加することで情報を収集することが行っておくことが望ましい。

まだまだ検討すべき事項はこれだけにとどまりませんが、ベンチャー企業のガバナンスを活性化し、日本の市場が適切に評価されるように現場から支援しなければなりません。



posted by NAY at 01:23| コーポレートガバナンス