2016年06月30日

英国のEU離脱と知的財産の実務や個人データ取引への影響についての雑感

1 知的財産権についての影響概要

英国公認特許代理人協会、以下「CIPAという。」は、おおむね以下の通り表明しています。
「英国がEUから離脱するとの投票結果に対して、直ちに英国がEUから離脱の効力が発生するわけではないことから、冷静な対応するように呼びかけており、EU離脱に向けた手続きとの関係があり少なくとも2年間は従来同様の実務が行われ、その間にCIPAは、知財権の所有者にとって最良の結果が得られるように、政府と協働していく。

また、英国の欧州特許制度への加盟は、世界知的所有権機関(WIPO)への加盟と同じく、EUへの加盟とは別の法的根拠を有しているから、英国のEU離脱の決定は、欧州特許(EP)の権利者に影響を与えるも、英国特許弁理士の欧州特許に関する実務遂行の能力を制限することはない。

従って、英国特許弁理士は、今後も全ての英国および海外の出願人のために欧州特許出願の手続を行うことができ、欧州特許出願人は如何なる権利も喪失することなく、また既に欧州特許庁(EPO)経由で得た特許権も影響を受けない。英国特許弁理士は、今後も全ての英国および海外の出願人のためにPCT出願の手続を行うことができる。さらには、PCT出願人は如何なる権利も喪失することはないとし、現時点では、英国の特許弁理士および商標弁理士はこれまで通りの業務を行うことができ、英国および海外の知財権所有者は如何なる知財権を喪失することもなく、EU IP registration systemへのアクセスも失うことはない。」

 以上から、知的財産権の出願や権利の維持の観点で直ちに大きな影響があるわけではないように思われるが、2017年に向けて発効作業が進んできた欧州特許統一制度には、特許主要国でもある英国のEU離脱がその進捗および発効時期に影響を与える可能性は十分考えられると指摘している専門家もいるほか、EU下にある欧州統一特許裁判所(UPC)の規定では、パリの本部に加えてロンドンに支部が設置される計画であったが、今回の離脱により、これも再検討になる可能性は十分存在する。

2 そのほかの法令特に個人データの越境取引についての問題点

知的財産に限らずEUの指令等により、英国国内で法的執行力を有している法制度が離脱により、国内で改めて同様の法令を整備するのかの問題がある。この点、法律の問題で特に特徴があるのは、EUから離脱することで、これまで、EU域内での個人情報データの取引は個人データ保護指令と自国の法制度によって根拠づけられていたのが、そもそもEU域外となれば、日本やほかの国と同じように個人情報データの越境データ取引をBCRの手続き等によらずに円滑に行うには、英国独自のデータ保護法制がEUのデータ保護指令と同様の十分な保護が与えられているか十分制の認定を受けなければならなくなり、十分制の認定を受けなければ顧客データ等の取引を英国を介してEU市場で流通している企業は今後、大きな影響があるものと思われる。

おりしもこの分野でも、指令ではなく規則として各国の法整備をしなくても直接的にEU加盟国に効力を発するGeneral Data Protection Regulationの発効米を控えているだけに、今後離脱に向けた2年間でどのような調整行うのか動向を注視する必要がある。


※200ページにも及ぶその原案が(2015年6月11日ブリュッセルで発行)が公開されている。(まだドラフトの段階で一部不備があります。)

"Proposal for a Regulation of the European Parliament and of the Council on the protection of individuals with regard to the processing of personal data and on the free movement of such data (General Data Protection Regulation) - Preparation of a general approach"
http://data.consilium.europa.eu/doc/document/ST-9565-2015-INIT/en/pdf

いずれにしても、今後どのようにEUからの離脱の手続き、交渉が進み法制度の整備がなされていくかは注目しておく必要がある。
この辺りは、UKの大規模ファームに属する英国人弁護士の友人とも連携していきたいと思います。
posted by NAY at 10:53| 企業法務全般

2016年06月19日

ベンチャー企業のコーポレートガバナンス

東証の上場基準が緩和されてから久しいがまだまだベンチャー企業のコーポレートガバナンスに問題がある事例が少なくない。上場が容易になっても市場の信用を毀損するような企業は上場を許されるべきではないし、上場を維持できるのも問題がある。確かに、企業規模に応じて組める体制に限界があるのは事実だが、投資家である株主への信頼を構築する点においては、マザーズ上場でも東証一部でも満たすべき基準があるのではないかと考える。

まず、取締役会の機能を評価するにあたり、コーポレートガバナンスコードの審議の活性化の項目を再確認しておきたい。原則4−12には以下の通りの記述があり、至極当然の内容である。この点から必要な事項を検討してみることとしたい。

【原則4−12.取締役会における審議の活性化】

取締役会は、社外取締役による問題提起を含め自由闊達で建設的な議論・意見交換 を尊ぶ気風の醸成に努めるべきである。
補充原則 4−12@
取締役会は、会議運営に関する下記の取扱いを確保しつつ、その審議の活性 化を図るべきである。
(@) 取締役会の資料が、会日に十分に先立って配布されるようにすること
(A) 取締役会の資料以外にも、必要に応じ、会社から取締役に対して十分な 情報が(適切な場合には、要点を把握しやすいように整理・分析された形 で)提供されるようにすること
(B) 年間の取締役会開催スケジュールや予想される審議事項について決定し ておくこと
(C) 審議項目数や開催頻度を適切に設定すること (D) 審議時間を十分に確保すること 

とくに、(@)の資料の準備が取締役会開催の当日や前日までかかり、配布がギリギリになってしまっている企業は問題を抱えていることは否めない。新規事業やM&Aにより事業拡大や経営を加速するために取締役会に上程する場合においても、適切に運用されている企業においては、取締役会の数日前やその計画段階で社外の役員との情報が協議され、適切に意見交換も取締役会に上程される前に当然に行われ、そのうえで審議されている。この理想形を実現できていない企業はやはり、事業部門と間接部門の連携に問題があるのか、そもそも経営企画、管理の部門の人員の体制の不十分性を検証しておかなければ、取締役会の機能が十分果たされているのか疑問が残ってしまうことになる。

(A)の点については、(@)ができている企業ほど適切に情報が整理されているように思われる。なお、最低限議論されるべきポイントとして、経営判断が適切になされているかという観点から、特に新規や既存事業のワーストシナリオ、ベストシナリオを議論しつつも、ワーストシナリオの際の回避策についてもきちんと整理され議論がなされることを目指すことが必要である。取締役の善管注意義務を考えるにあたり、やはりワーストシナリオ自体やその回避策についても議論がなされずに事業が失敗するような場合は、取締役の善管注意義務違反を議論するにあたっては非常に厳しい事態になりかねない可能性もありうるからである。
この点ができていないベンチャー企業は議論するべき論点についての運用を速やかに変更することを検討するべきである。

(B)(C)については、年間のスケジュールや予想される審議事項、項目数については、多くの場合、計画はあることが通例だと思われるが、企業の規模と体制の成熟度のバランスから何を取締役会で議論すべきかはきちんと検証すべきである。取締役会の効率性ばかりを重視して、決議すべき上程事項を限定しすぎると特に社外の役員が把握せず施策が実行されることが発生しかねない。このようなことが十分にできていない企業においては、特に、社外役員は取締役会だけではなく、経営会議などにも適宜参加することで情報を収集することが行っておくことが望ましい。

まだまだ検討すべき事項はこれだけにとどまりませんが、ベンチャー企業のガバナンスを活性化し、日本の市場が適切に評価されるように現場から支援しなければなりません。



posted by NAY at 01:23| コーポレートガバナンス

2016年04月07日

慶應大教授のゲノム解析結果公表と保険会社のゲノム利活用から見る個人情報保護や自己決定権による説明の限界

ゲノム解析のビジネスの進展は、どんどん進んでいる。もちろん個別化医療、精密医療(Personal medicine、Precision medicine)の観点からゲノムの解析結果の活用は医療の質と正確性の向上に寄与してもらいたい。しかし、倫理や個人情報の保護、差別につながるリスクについても積極的な議論を行わなければなりません。

まず、根本的にゲノムの解析結果の情報は、法的に見て本人の同意だけで足るのでしょうか。ゲノム解析結果の一部は先祖や子孫の情報に関連するものであることを忘れてはいけません。法的に見ても、個人の自己決定権の範疇で、適法化できる問題ではない点を絶対に忘れてはいけません。そもそも、自分自身で、親や子供、孫の世代までに個人一人が責任を持てる問題ではないのです。

【保険会社とゲノム情報の問題】

近時の事例においても、遺伝情報を生命保険に適用するような取り組みも始まろうとしている。明治安田生命の取り組みが報道(毎日新聞の記事)されたのも記憶に新しい。確かに、適切にリスク分析ができ、本来多くの保険料を支払わなくてよい人たちにとってはメリットはあるかもしれません。しかし、これでは、遺伝的に重大疾病のリスクが高い人が差別され、場合によっては保険に加入できないことにつながることのリスクとバランスの議論はなくてよいでしょうか。現在日本国内においては保険にはこのような業法規制が明確にはありません。

しかし、これでゲノム解析を保険加入者に促す流れを作った場合、ゲノム解析の解析結果の情報はどこに行くでしょうか。どこに頼むのでしょうか。現状においても解析業者は中国勢がかなり勢いを増し、かなり安価な解析が可能になってきています。だからこそ国内においてゲノム解析の結果の情報がとどまるとは言い切れません。この結果何が起こるのか規制を議論する政策論としては議論をもっと進めなければなりません。国内の保険会社だけの問題ではなくなる可能性も視野に入れなければならないのではないでしょうか。

これに対して、改正された個人情報保護法においても、越境データの規制は非常に弱いもので、最終的に国内法ではゲノム情報が点々流通した場合に情報は守り切れないと思われるほか、本人以外の関連するゲノム情報は、利活用に関しては同意は取れておらず、自由に本人同意さえあれば、自由に利活用できることに制約がなくてよいのか真剣に考えなければなりません。

【大学教授の実名でのゲノム解析情報の公開】

慶應義塾大学教授が個人のゲノム情報を実名で公開したというニュースもでてきました。これも、ご本人が同意をされていらっしゃる類型かもしれませんが、完全に一致しなくても、関連するゲノム情報を持っているご両親、ご親族、もしお子様がいらっしゃれば、彼らの同意は得られているのでしょうか。全世界に公開することは少なくとも血族の同意は必須であるように思いますが、今後の研究の発展と倫理、法規制をどのように考えなければなりません。研究活動を阻止したいとは思っていませんが、権威のある大学がこのような取り組みを始めるうえで、大学がやっているのだし、研究目的だから全く問題にならないという見解のまま一般的なサービスにゲノム解析情報が扱われてはいけません。

ゲノムに関しては、ゲノムの解析結果の利活用についての利用と制限のバランスを定めるゲノム規制法の議論を早く進めなければ手遅れ委になる可能性もあります。自主規制やガイドラインで議論する段階は終わりつつあります。一般の方にも、家族がゲノム情報を開示することでどのような問題に発展するかまた、医療の発展、効率化とどのようにバランスしていくかの議論を真剣に考えてもらいたいと思います。

posted by NAY at 12:28| 医療情報

2016年03月30日

コーポレートガバナンス強化及び企業経営において、ITの知見は必須である。

企業のコーポレートガバナンスにおいて、取締役の機能評価や社外役員にとって必要な人材について何度か自分自身の考え方をお伝えさせていただきました。今回は、経営の効率化けとリスクを正しく判断していくためには、経営者にITの世界の知見が極めて必要だと考える理由についてご紹介したいと考えます。

(序章) 全産業のソフトウェア産業化
2011年に、Marc AndreessenWall Street JournalWhy Software Is Eating The Worldというインパクトのある表現を使ってもあっているが、全産業がソフトウェア産業化していることはほかの記事などでもご存知の方も多いかもしれません。しかし、この傾向についていけない経営者しかいない企業は、競争性どころか企業が対処しなければならない課題にも迅速に対応できず損失を生んでしまうことになりかねない時代が到来していると考えます。


【日本での現状】
いくつかの事象から日本の現状を心配しています。必ずしもすべての会社がそうということはありませんし、十分にIT人材を確保し、経営の効率化を実現し、リスクを的確に把握できている企業もありますが、問題のある企業も多いと思います。一度取締役及びその下で運用されるような経営会議レベルにおいてITの戦略と中長期の経営戦略を合わせて議論できる人材がどれだけいるかはその企業の力量を図るうえで従業なことであると考えます。

【システム開発トラブル事例から見る経営の非効率と損失の拡大】
まず、日本におけるシステム開発の現場において1つ私が感じていることがある。数々の数億円以上の訴額に上るシステム開発紛争の相談を受けていると多くの場合、特にユーザー企業側の経営トップが基幹システムや自社のビジネスの業務にいおいてシステム化の必要性を正確に認識できていないことに起因する事例が多いです。すべてベンダーの責任にしてしまうことで、効率的なシステム開発が行われず、なんでも外部ベンダに頼めばよいというシステム開発の重要性を理解できていないことが原因となる紛争事例に発展します。結果、トラブル対応コストによる損失を拡大させているだけではなく、利益獲得の機会も失っている事例は少なくない。これは日本経済おいて、非効率かつ不健全なマイナス要因となっています。

【セキュリティ意識の低さと情報の越境取引の存在を認識していない】
次に、システム開発の予算削減において、軽んじられるのがセキュリティ対策の問題があり、これが、ビジネスのリスクにつながってくる問題です。従来と異なり、企業はいろいろな側面で個人情報を取得し、これを活用してビジネスを行っている。さらには、これが国境を容易に超えることがあり、日本国内法のみならず、海外の法制についてのリスクを十分に把握してビジネスの設計から、システムアーキテクチャの設計まで考えなければならない。

いうまでもなく、IoTのシステムインフラが拡大していくと日本の製造業においても製造物がネットワークにつながっていく、そしてこれが世界に販売されていく、医療機器、自動車、パソコン、家電、建築物、交通インフラなどすべてがネットワークにつながろうとしている。にもかかわらず、日本の経営者からはやりものとしてのIoTのことばは発生られても、これらがハッキングされたときのリスクへの創造性があまり高くない。これまでそれほどネットワークやセキュリティのエンジニアが必要でなかった企業においてもそのような人材が必須となる時代がそこまで来ているのです。

すでに、リスクが顕在化して事例として、とある家庭用の見守りWebカメラではデフォルトの設定に種類がなく、高度なハッキング技術がなくても、同じ商品を購入すれば、ハッキングされかねない形で商品が販売されている例もすでにありました。これは高度な技術というよりも、リスクを設計の観点から分析し、初期設定において、購入する顧客のITリテラシーが高くない場合のリスクマネジメントの意識が低すぎる事例でした。

このようなレベルでとどまればよいですが、ベルギーでのテロにおいて、原発が対象とされたように、リアルに攻撃されるだけではなく経済インフラを使って相手の国に打撃を与えることも可能な時代になってきています。これに対し、原発などを管理する電力会社などインフラ企業においてもセキュリティの意識とその人材が経営陣にどれだけいるかを真剣に考えなければなりません。

今こそ、コーポレートガバナンスを考えるうえで経営や財務だけではなく、ITやセキュリティが理解できる。そして戦略的に活用できる人材が必要であることを指針として取り込むべきである。日本の経営を全産業ソフトウェア化の時代において負けないようにするのみならず、適切なリスクマネジメントできる企業とする必要があると考えます。私は、取締役会機能評価の現場においては、このような視点から取締役会の意見がでているかを私は重要な要素として議論し、アドバイスし、このような仕組みと強調できる仲間を集めていきたいと考えております。


posted by NAY at 16:38| コーポレートガバナンス

2016年01月31日

コーポレートガバナンス強化と社外役員の資質の再考察2:経済的自立性と報酬の問題

コーポレートガバナンスの強化において独立役員の選任の基準はどのように考えるべきであろうか。会社との取引関係や経歴などこれまでの独立性の基準はもちろん独立性の判断基準足りえると思われ、通常は、

@株主との関係、A取引先企業との関係B会社との経済的利害関係Cこれまで一定の関係にない専門的サービス提供者D近親者かどうかなどを検討の独立役員の選任の基準としている企業は多いものと思われる。

しかしながら、このような基準だけでは不十分な場合である。やはり、社外役員が対象会社以外の収入では自活できないような場合である。不祥事が起こった場合、その職責を賭してでもNOといえるかは、対象会社からの経済的な独立性と、自らの経済的自立性の視点も検討要素とすべきではないかと考える。社外役員といえでも人間であり、年齢によっては家族を養っている方が少なくない。
社外役員としての報酬が生活の基盤を支える所得の中心となってしまっては、本当の意味で、その立場を賭して業務執行取締役や取締役会に反対意見屋反対票を投じることができるのか限界があると思われる。やはり社外役員の選任基準においては、候補者の経済的自立性についての考慮要素も加味することも考えることも必要ではないかと考える。

一方で、この議論を進めすぎると会社からの経済的な依存度を下げればよいということになるがそうではない、社外役員自身が他の仕事で経済的な自立性が確保できていても、会社からの役員報酬が少なすぎる場合も社外役員がコーポレートガバナンスに本当に機能しているのか疑問の余地がある。会社の規模、海外事業所の有無、事業所の数や関連会社の数ビジネスの種類等に応じ適切な報酬が支払われているかの最低限の基準についても併せて議論しておく必要があるものと思われる。


posted by NAY at 19:26| コーポレートガバナンス

2015年12月28日

証券取引監視委員会の東芝の旧経営陣への刑事告訴のニュースに隠れたヘルスケア事業の売却問題

証券取引等監視委員会が東芝の旧経営陣3社長に刑事告発の検討に入ったとする報道がなされてきている。日本を代表する企業がここまで巨額の不正会計を行っていた以上、辞任や課徴金だけの処分では、責任を取ったことにはならないのは言うまでもなく、刑事責任の検討は必要不可欠であると考える。この点については、他の記事においても言及がなされているであろうから別の視点から本事件を見ておきたい。

今回は、不正会計で利益の水増しを行っていたのみならず、今回の事態が明るみに出たことで益々東芝への不信は増大し、業績を改善するために、重要なヘルスケア事業の売却を検討している点についてとりあげたい。

売却の対象と取りざたされている東芝メディカルシステムズこの事業においては、DNA検査装置、医療画像のシステムや電子カルテのインフラを国内の病院等に提供する事業がある。これは何を意味するか。もし買収先が外国企業でかつ個人の情報やプライバシーの保護にあまり関心のない企業であったとすれば、我々のヘルスケア関連のデータがどのように扱われるかその安全の保障が揺らぐ可能性はないのか。

この問題は、かつてパナソニックヘルスケアの売却検討時に問題となったことと同様の問題である(当時のロイターの報道記事)。パナソニックヘルスケアは当時単純に業績ベースで評価した価格をはるかに凌駕する高い評価額が付けられた。患者のデータの再利用に非常に価値があると評価された可能性は否定できない。ヘルスケア事業の売却は、単に私企業の事業部門の売却とだけとらえてよい問題ではないのである。

今回も東芝メディカルシステムズは、カルテや画像診断のシステムを販売しているだけで、患者のデータを蓄積していなかったとしても、保守サービス等も提供しており、この点が本当に第三国の株主が過半数を占めた場合に、適切な情報管理と運用が行われるのかは不明である。万が一このような懸念がある外国企業に売却されても、現行法では個人情報やプライバシーの観点化からこの売却を予防的にに差し止める法的手段を考えるのは難しい。

このようにヘルスケア産業を巻き込んだ不祥事は、医療サービスを利用する一般個人にも影響しうる問題であることにもっと関心を持ってもらいたい。残念ながらこの観点からの報道が全くない。今回は情報の蓄積がないから大丈夫であるとか、保守においては情報に触ることが絶対にないと言い切れる取材がなされたのであれば私も何も言うつもりはありませんが、おそらくそこまで深堀はされていないのではないでしょうか。

皆さんも報道から分かる事情だけではなく何が今の日本で起ころうとしているのかもっと関心をもってもらいたい。この問題は法改正で対応すればよいではないかという議論もあるが、パナソニックヘルスケアの問題が起こった後に行われたはずの今回の個人情報保護法の改正においても直接的にこのような売却を止める法改正は採用とはなっていない。情報法制で個人の利益を守り切ることは難しく、東芝の事件を通じ、コーポレートガバナンスを有効に機能させ、不祥事を未然に防止することがいかに重要か改めて考えさせられる次第である。

posted by NAY at 22:52| コーポレートガバナンス

2015年12月21日

コーポレートガバナンスが機能せず企業不祥事が起こった場合の技術流出と経営者責任の重み

東芝の不祥事に関し、新日本有限責任監査法人への行政処分と課徴金のニュースが飛び込んできている。記事によれば、今後旧経営陣を含む上層部への責任追及の検討がなされるようである。企業が課徴金を課されたり、水増しや粉飾があった場合、企業としての業績を回復させるために企業再編の動きに繋がることが多い。

しかし、企業再編によって、今後の日本で何が起こるのかをもう少し真剣に考えてもらいたい。中国では、今に始まったことではないが、不動産などの買収のみならず、知的財産を含む技術を狙った買収が増えてきている。これは、今までのM&Aにも現れている現象であるし、以下の日経の記事にも現れている。

知的財産も爆買い 半導体の「飢えた虎」 (中国と世界) 日本経済新聞の記事


中国もこれまで、不動産等の資産の膨張によるバブルによる成長に限界が生じ、企業も下請け工場から、独自の技術による成長を考えなければならないフェーズにきており、東芝の企業再編やシャープの業績不振などは、格好のターゲットになる。

東芝は、このような中国の政策的な動きの格好のターゲットになる。そして、一度買収され海外に流出した技術は、少子高齢化、人口減少に対する対策を何も打てない日本には絶対に戻ってこない。なぜならば、市場としての魅力が全くないのみならず、さらに自国の産業強化にその目的があるからである。これは、企業不祥事が雇用を消滅させ、日本経済にダメージを与えかねない状況にあるということを意味している。

東芝の不祥事に関し、この結果、リストラが検討されているが、人間の頭にある技術流出もある。このような日本経済を支えるノウハウの流出が不祥事に伴って発生するという現実も起こる。取締役の責任はそれだけ思いと考えなければならない。

弁護士の我々も、国の政策としてももっと議論し、コーポレートガバナンスや社内の機関設計・内部統制を議論しなければならないのではないかと強い危機感を感じる。ただ単に士業として稼ぐためだけの仕事をしている弁護士ではなく、日本のこのような現状に微力ながら何かできないか真剣に考えなければならないと日々考える。まずは、企業内のコーポレートガバナンスや内部統制の機能をしっかりと構築しつつ、取締役会の機能評価、役員へのより広い視点での啓蒙を続けていきたいと思う。


posted by NAY at 08:28| コーポレートガバナンス

2015年12月07日

Airbnb、民泊解禁と公衆衛生(風営法関連事業の問題)

大田区の特区を活用した民泊条例案が可決されたニュースが入ってきている。テロ対策、パンデミック対策については十分かは以前のブログでも指摘させていただいた。しかし、ホストと利用者以外の周辺住民というステークホルダーへの配慮の観点からもう一つ心配している事項があります。

それは、風営法における無店舗型性風俗特殊営業の存在である。現場の保健所等の行政もこの問題を心配している者もいる。特にビジネスホテルにおいても反社会的勢力の温床になりやすいこの手のビジネスにおいて、排除する体制を検討しているがなかなか完全排除できないのが実情です。この点、民泊と同じく旅館業法のグレーゾーンであるウィークリーマンションの適法性について検討を行ってみると、この業態を認めるかどうかの問題点の1つとして性風俗産業の暗躍の問題とこれを排除して公衆衛生を考えなければいけない点をを挙げることができます。

無店舗型性風俗特殊営業と民泊は残念ながらビジネス的に親和性は高いものと思われ、特にマンション等では、こういったが利用形態でマンションの平穏が害されることは間違いありません。区分所有権者といえどもこういった利用形態は近隣住民の許容の限度を超えているものと考えられます。特に非居住者の外国人が所有する物件ではこのような問題は多く発生しそうな気がしております。

したがって、民泊解禁においては、ホストの届出制または登録制により、マンションの管理規約を提出させ、民泊が許容されることを条件とすべきで、一定の回数上限も検討してもよいかもしれません。また一方で、ルールを作っても違反行為も発生する可能性があることから、可能であれば風営法の側でも一定の改正を行い、民泊施設の活用で、無店舗型性風俗特殊営業の運用を行う場合を処罰又は取締まれるように対応すべきではないかと思われます。

実際、渋谷区では、ホテル以外の施設でこのような利用がなされないように旅館業法の上乗せ条例もある他、新宿区や池袋など繁華街の近いエリアでは旅館業類似の業態に対する旅館業法の運用は厳しく行われています。地域的にこのような公衆衛生の観点から旅館業法が機能している側面もあるのです。

民泊を解禁しつつ、適正に育成するためには、周辺の法律の運用強化により、対応すべき問題もあるものと考えます。誰しも自分の隣の家で無店舗型性風俗特殊営業の利用をされたい人など誰もいないのではないかと思います。特に、小さい子供たちがいるような環境ではなおさらのことです。少子高齢化対策が急務の日本では住環境の悪化はさけたいところです。

屋や上記の問題とは異なるものの住環境の悪化という点では共通する問題が外国では発生制定ます。現に米国サンフランシスコ市では、Airbnbの解禁でこちらの方が収入が得られるようになり、居住用の賃貸借契約の賃料が上昇し、住環境の確保が難しくなっているエリアが出てて来てる弊害もでてきています。解禁した場合のメリットのみならずデメリットに対策を効率的に対応することで、住環境の悪化を防ぎつつ、外国人旅行者を安心して迎え入れることができるインフラとする議論が必要だと思われます。



posted by NAY at 22:18| 電子商取引/IT/コンテンツ

2015年11月29日

コーポレートガバナンス強化と社外役員の資質の再考察1

コーポレートガバナンスコードでも社外役員の数の確保が要請されています。ただ単に員数をそろえたから十分なコーポレートガバナンスが実現できるかというと現実はそうではないと考えています。それでは、有効にコーポレートガバナンスが機能するため社外役員の資質とはどのようなものでしょうか。もちろん法律、財務、会計や業界を熟知していること等様々なプロフェッショナルとしての資質は有効としても、そういった理論的かつテクニカルな分野の知識だけで経営判断ができないのは言うまでもありません。もっと広い観点で企業の社会的責任、顧客をはじめとするステークホルダーへの信頼を裏切らないという観点が極めて重要だと考えます。

この点、社外役員の不足を好機ととらえ会計士や弁護士会は社外役員の推薦名簿は作成されていますが、単に新たな職域拡大として意識しているのならこれは大きな間違いです。前述の通り、法令や財務、会計当の知識だけにとらわれた判断ではまずいのです。もっと、大きな枠組みで企業の社会的正義としてのコンプライアンスという概念をとらえなければなりません。このことは過去の不祥事事件の背景をみていくと、明らかになって参ります。この観点から、士業は社外役員候補者を選定するのであればぜひ進めていただきたいと思います。

例えば、パロマの事件では、現場での外注先や修理業者の不正改造事件では、不正改造が行われた一定期間の回収は行われたものの、それ以前の不正改造の給湯器が市場に残されてしまって、それが放置されました。結果として事件・事故が発生し、大きな不祥事に発展しました。なお、この事件では、訴訟で修理業者に問題があるとしてパロマは裁判所で責任を問われない判断がなされた事例があり、これをもって大丈夫だという判断がなされていた可能性があります。

しかし、裁判所の判断も万能ではありません。裁判所は、弁論主義に基づき、基本的には当事者の主張立証した事実関係から判断されますので、個別の事件での判断が出たとしても、企業の一連の不祥事案件の全体像を判断したことにはならず、理論的レベルで勝訴したのではなく、単に主張立証責任のレベルで被害者側が十分に主張立証できずに勝訴したということは考えられるのです。

したがって、不祥事に関連した個別事例において裁判所において勝訴できたとしても、これによって、一連の事象に問題がないということにはなりません。法律や訴訟というレベルではなく、本当に企業内の情報を精査した時に、企業の顧客を含むステークホルダーに対する責任を裏切っていないのかどうかというより広い観点での考察が必要です。

特にこのケースでは、不正改造がなされた可能性がある一部の商品群を放置したことに問題があり、放置することにより、2次被害が発生しています。商品に問題があり2次被害の可能性のある業態では特に注意が必要です。このことは、特に2次被害が発生しやすい食品衛生の問題やBtoCの商品を製造販売している企業においては注意が必要です。また、これからの季節は特に飲食関係はノロウィルス等に対する対策も強化することが望まれます。

また、ささやき会見で有名となった船場吉兆の事件においても、根本的にお客様の信頼を取り戻そうとする姿勢があったでしょうか。経営陣は、場当たり的な対応に終始し、徹底的な改善策を施すどころか民事再生手続の申立てをした後ですら、新たな不祥事が発覚し、結果破産に追い込まれました。これも、顧客の信頼を裏切らない姿勢と実行力があれば、このような事態は避けられたと思います。また、食品の不祥事としてリーディングケースとなった雪印乳業の事件も、2次被害を防部ために、消費者の早期のクレーム発生時に対応すべき事例でした。

以上からすれば、法令、財務、会計といったテクニカルな観点よりも広い、企業の社会的責任の観点から、不祥事とトラブル対応と予防を行うことが極めて重要だと思われます。そのために、普段からお客様の信頼を裏切らないために、事業上の大きなリスクファクターを洗い出し、集中的に対応することが重要であると考えます。社外役員にも、広い観点からリスクを分析し、取締役にこれを進言できる資質が必要であると考えます。

posted by NAY at 19:30| コーポレートガバナンス

2015年11月15日

Airbnb解禁とテロ・パンデミック対策との整合性

あまりイノベーションを阻害したくないので広くコメントすることは避けてきましたが、今回のフランスでのテロもありましたし、エボラ出血熱や韓国での中東由来のウィルスMERSの拡大も続きましたのでやはり黙っているべきではないと考えました。

規制改革推進の中で、Airbnbの解禁が話題になっている。私も一部省庁には意見を述べさせていただきましたが、シェアリングエコノミーでもともと業法規制の背景にある、公衆衛生のコントロール、治安の維持は決して緩和してはならないと考えています。

日本は安保法制を通し、政治的には集団的自衛権行使容認に舵を切った以上、テロの標的になる可能性は否定できません。また、経済のグローバル化で、いずれエボラ出血熱の様な危険な感染症の水際での排除がいずれ限界を迎える危険はないのでしょうか。日本のナショナルセキュリティを考える上でこのような外国人が国内に入国した場合の対策を併せて議論しなければなりません。国の政策を見ていると、他国に比べてインテリジェンス機能も低いにもかかわらず、このようなナショナルセキュリティの分野が内閣府の規制改革においてもあまり深く議論されていないことについてはリスク感覚がなく非常に危機感を覚えています。

もちろん、私としてもシェアリングエコノミーの活用を否定し入るのではなく、規制緩和により導入するのであれば日本の安全を阻害しない導入方法を考えるべきだと言う意見を持っています。

今回のフランスでの痛ましいISによるテロに対し考えなければないことがやはりあると改めて感じました。日本も標的にならないとは限りません。旅館・ホテル関係においては、宿泊名簿備義務の他に以下のようなテロ対策が行われています。しかしながら、Airbnbのホストにどこまでこのようなことができるのでしょうか。プラットフォーマーであるAirbnbについてもどこまでこの対策ができるのでしょうか。プラットフォーマーとしての責任論をあまり議論せずさらにホストを自由にしてしまってよいのかの点について、この観点から議論しなければなりません。

まずは、旅館・ホテルのテロ対策を見ていきましょう。
以下は国土交通省テロ対策のページより引用したホテル・旅館関係のテロ対策です。

【ホテル・旅館関係】 参考:旅館等における宿泊名者簿等への記載の徹底について
 ・宿泊者名簿への正確な記入
 ・日本国内に住所を有しない外国人宿泊客にあっては国籍、旅券番号も記入
 ・日本国内に住所を有しない外国人宿泊客にあっては旅券の呈示を求め、国籍・旅券番号を確認及び旅券の写しを保存
 ・捜査機関を含む関係行政機関への協力
 ・不審者等発見のための施設内外の巡回・点検
 ・テロ発生時における通報・連絡・指示体制の構築の徹底

【旅行業関係】
 ・旅行者への外務省危険情報の伝達
この辺りが主な対策となっています。
                                                                     
では、旅館業法の規制緩和でAirbnbが認められることで、宿泊名簿備置義務の運用がより徹底されなくなるリスクはあるものと思われます。この点、プラットフォーマーが提供するレーティングの仕組みや評判で問題のあるホストや利用者は排除できるという考えもありますが、テロ攻撃やパンデミック対策においては完全に無力でしょう。初めての旅行者が感染者であったり、テロにおいても現地調査班と実行部隊が異なることは多く事後抑止的な仕組み出は全く機能しないことは言うまでもありません。対象者の滞在中に感染症関連の対策法や警察・公安との連携が迅速にできる仕組みは維持するどころか強化すべきであると思います。

ではどのように規制すべきでしょうか。まずは過剰規制にならないように配慮する必要はあるためこのテロやパンデミック対策分野においての行政への協力を果たすことを認識させたうえでのホストの登録制は導入しておくことが望ましいものと考えます。また一定の違反をしたホストは利用を停止させる処分を行政がもつべきであることから登録後違反した場合の登録取り消しの制度も厳格に運用されるべきだと思います。現状はマンションの管理規約でAirbnbの利用を禁止していてもすり抜けて利用しているケースは既に存在しており、ルールを守らない利用者は存在しています。ルールはすでに守られていないのです。大したことではないではないかとおっしゃるかもしれませんが、その油断がテロやパンデミックを爆発させてしまった後でも同じようなことが言えるかは大いに疑問です。ホストを対象とした登録制をはじめとする最低限の規制は必要であると考えます。

ただ、許可制にくらべ登録制はより制限的ではない規制方法とはいえるものの、限界があります。最近はタワーマンションを中心に外国人の非居住者が投資回収のためにAirbnbを活用していることがあり、非居住者のホスト対策があまり議論されていないことも併せて確認しておきたいと思います。ホストが不動産の現地いないため、テロの場合は、テロ拠点に使いたいときこのような物件を使えばテンポラリーな潜伏を快適に行えてしまいますし、登録制では管理しえない事例もでてきます。

この点をもっと議論しておかないとオリッピックはこれで大丈夫なのでしょうか。この対策としては、やはり、ホストが自分で宿泊者の情報を管理できないなら登録の管理業者の選定を義務化するなど宿泊者の情報を把握する管理者を置くなどの工夫も併せて考えるべきではないかと思います。また、併せて不動産の近くに管理者がいないか住んでいない非居住者がホストの事例においては、併せてプラットフォーマーに一定のルール作りを義務化すべきか、また宿泊者の情報を緊急時に規制当局とどう情報連携するのかの問題が今回の規制緩和では吹っ飛んでしまっています。是非ここをもう少し詰めていただきたいと思います。

適切かつ円滑なシェアリングエコノミーの発展を願いますが、やはり日本の安全がないがしろにされてはいけません。子供たちの世代にも治安の良い平和な日本を守り切ることはビジネスサイドにいても忘れてはならないと思います。

posted by NAY at 10:00| 電子商取引/IT/コンテンツ